職業から姿勢を考える面白さ 〜今回はピアノ奏者〜

私は身体を見るとき、「痛い場所」だけを見ることはありません。

その人が毎日どのような姿勢で過ごし、どのような身体の使い方を繰り返しているのかを考えることを大切にしています。

例えば、

  • デスクワーク
  • 美容師さん
  • 保育士さん
  • ドライバーさん
  • スポーツ選手

それぞれ身体の使い方は大きく異なります。

そして、その違いは姿勢や筋肉の使い方だけでなく、負担がかかりやすい部位や起こりやすい不調にも影響すると考えています。

今回は、その一例として**「ピアノ奏者」**について考えてみました。


ピアノは「指」だけで弾いているのでしょうか?

ピアノを弾いている姿を見ると、どうしても手や指に目がいきます。

しかし、理学療法士として身体を見ると、最初に気になるのは別のところです。

例えば、

  • 椅子の高さは適切なのか。
  • 椅子には浅く座るのか、深く座るのか。
  • 鍵盤との距離は適切なのか。
  • 骨盤はどのような角度になっているのか。
  • 股関節から前傾しているのか、それとも背中だけが丸くなっているのか。
  • ペダルを踏む右足は、骨盤や体幹のバランスに影響していないのか。

このような条件が決まることで、

  • 体幹
  • 肩甲骨
  • 肩関節
  • 前腕
  • 手首

へと動きが連鎖していきます。

つまり、指は身体の一番先端で仕事をしているだけで、その土台は全身にあるということです。


長年演奏を続けると起こりやすい身体の変化

もちろん、すべてのピアノ奏者が同じ姿勢になるわけではありません。

演奏方法や練習時間、体格や柔軟性などによって個人差があります。

しかし、同じ姿勢や動作を長年繰り返すことで、身体には少しずつ特徴が現れてきます。

首や肩がこりやすくなる

頭が少し前に出た姿勢が続くことで、首や肩の筋肉に負担がかかりやすくなります。


猫背・巻き肩・ストレートネック

腕を身体の前で使い続けることで、胸郭や肩甲骨の動きが少なくなり、このような姿勢へ変化していく可能性があります。


腕や手のしびれ・だるさ

首や鎖骨周囲の筋肉(斜角筋や小胸筋など)が緊張すると、神経や血管が圧迫され、胸郭出口症候群のような症状につながることもあります。


手首や指の痛み

長時間の演奏では、手首や指への負担が積み重なります。

腱鞘炎などが代表的ですが、原因は手だけではなく、肩や体幹の使い方が関係している場合も少なくありません。


腰や骨盤まわりの違和感

長時間の座位姿勢に加え、右足でペダルを繰り返し操作することで、骨盤や股関節の左右差が生じ、腰痛や仙腸関節周囲の違和感につながることも考えられます。


「痛い場所」だけではなく、「身体の使い方」を見る

もちろん、これらがすべてのピアノ奏者に起こるわけではありません。

しかし、同じ姿勢や動作を何年も繰り返せば、その人特有の身体の使い方や姿勢の特徴が少しずつ作られていきます。

だから私は、「肩が痛いから肩だけ」「手首が痛いから手首だけ」という見方はしません。

その人が毎日どのような姿勢で過ごし、どのような身体の使い方を積み重ねてきたのか。

そこまで考えることで、本当の原因や負担のかかり方が見えてくることがあります。

職業や趣味は、その人の身体をつくる大切なヒントです。

これからも、さまざまな職業や趣味をテーマに、「身体はどのように適応していくのか」という視点から考えていきたいと思います。